映画「ミート・ザ・フューチャー 培養肉で変わる未来の食卓」を観てきました。
培養肉とは牛肉、豚肉など、肉の細胞を先端科学技術で培養して肉をつくるというもの。畜産による地球環境破壊を解決する技術として近年注目を浴びています。
この映画の主人公であるアメリカ在住のインド人は、培養肉を量産するための会社を立ち上げるのですが、なんと彼の前職は心臓医。心臓に幹細胞を注入すると心筋が再生し始める、その様子を見て、同じ原理で食肉を培養できるはずだ、と思いついたというのです。
その背景には、インドで過ごしていた子ども時代の思い出がありました。友達の誕生日パーティーに呼ばれて行ったところ、大勢の人が大量のごちそうを囲んで楽しんでいました。しかし、途中で裏庭に出てみたところ、そこではこれから料理される動物が屠畜されていたといいます。「誕生」を祝う華やかな祝宴と、すぐ隣り合わせにある残酷な「死」。そのギャップに衝撃を受けた彼は、なんとかして動物を殺さないで済む方法がないのだろうか、と考えるようになったといいます。でも肉の味は自分でも好きだし、肉を食べることをやめたくはない。殺さずに肉を食べることができたら……という長年の夢を実現するのが、培養肉技術だ、と考えたと言います。
心臓医を続ければ、30年間で3千人の患者を救えるだろう。でも培養肉の量産に成功すれば、何十億もの人や、数えきれない動物の命を救える……そう考えたら、心臓医を続ける選択はもうあり得なかった、というのです。
培養肉にかける彼の情熱に賛同し、優秀で熱心な科学者たちが何人も彼の元に集まり、共同で研究を続けます。
そして量産化に向けてだんだんにコスト低減も進んでいきます。2017年には1ポンド(454g)の肉をつくるのに、1700ドルもかかっていましたが、2020年には1ポンド50ドルにまで下げることに成功しました。映画が出来た2020年の段階では、まだFDA(アメリカ食品医薬品局)やUSDA(アメリカ農務省)の認可がおりておらず、販売にまでは至っていませんでしたが、今はどうなっているのでしょうか。
こうした新技術でつくられたものは気持ち悪い、害があるかどうかわからない、食べたくない、という人ももちろんいるでしょう。わたしも本当を言うと食べたくありません。でも、肉が好きで毎食肉を食べないと気が済まない、というような人には、本物の肉だけでなく、こうした肉も食べてほしいと思っています。
というのは、地球上のすべての人がアメリカ人や日本人のように肉を食べるのは不可能なのです。放牧するには土地が足りませんし、アメリカで一般的な工場式畜産をするにしても、飼料となる大豆やトウモロコシを栽培する土地が足りません。灌漑のための水も足りません。アメリカで大量の穀物栽培が可能な理由は中西部にオガララ湖という巨大な地底湖があるからなのですが、このままではそれも干上がってしまい、肥沃な穀倉地帯もいずれ砂漠に変わってしまいます。アマゾンの熱帯雨林も放牧や飼料の大豆栽培のために伐採され続けています。畜産は地球環境破壊の最大の要因なのです。
こうした環境問題に対するひとつの解決策が培養肉です。ビル・ゲイツがこの会社(「メンフィス・ミート」から途中で改名して「アップサイド・フード」)に投資しているのも、人口増加による食料問題の解決につながると思っているからでしょう(決してビル・ゲイツが好きなわけではありませんし、彼の肩を持つわけでもありませんが、殊この視点に限っては間違っていないと思っています)
動物たちが劣悪な環境に閉じ込められたり、殺されたりすることなく、どうしても肉が食べたいと言い張る人々の胃袋も満足させられる、そんな時が来るといいな~とわたしは思います。
でも安全性に問題はないかどうか、しっかりとしたチェックが求められますね。みなさんはどう思いますか?
「つれあいにこの映画の話をしたところ『で、おいしいの? 神戸牛とかに匹敵するくらいの味なの? そうでないと売れないと思うよ』との“意識低い系”コメントをもらい、せっかくの高揚感を台無しにされました~。でもフツーの男の人ってそんなものかな」
自然療法家 安田美絵
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