映画『シュガー・ブルース 家族で砂糖をやめたわけ』

「バースデイケーキは冥界へのチケット。毎年食べるたびに死に近づく」
映画『シュガー・ブルース』は主人公アンドレアの誕生パーティーのシーンで始まる。ケーキに立つろうそくの灯りで下から照らされるアンドレアの顔はまるで幽霊のようだ。バースデイケーキを囲む親戚たちが「元気で長生きできますように」と言って乾杯するのは、砂糖の害を知る者にとっては皮肉でしかない。

 

アンドレアは33歳で3人目の子どもを妊娠した。極度の疲れを感じて受診すると、妊娠糖尿病と診断される。妊娠中はホルモンのバランスの関係で血糖値のコントロールがうまく行かなくなりがちなのだ。
妊娠糖尿病になると、胎児が巨大児になるなどのリスクがある……。インターネットで調べるアンドレアの目の前には膨大な数の奇形児の画像が広がり、彼女の心配は募っていく。

アンドレアの祖国チェコでは砂糖は金のように崇められていた。チェコでは製糖業が盛んで叔父は7つの製糖工場を渡り歩いて働いたし、親戚の集まりには何種類ものケーキがずらりと並ぶ。チェコは角砂糖発祥の地でもある。
祖母は糖尿病が原因で足の潰瘍になり、歩けなくなった。家での介護が限界に達し、入院させることになったが、入院して間もなく祖母は死去。そこから家族の崩壊が始まる。後を追うように祖父も首を吊って命を絶ったのだ。
チェコの人々は今も砂糖を愛好し、批判的な意見には森の奥でもないと出会えない。
森の中で筋反射テストの実験をして見せる人がいる。筋反射テストは食品の人体への影響を検査する方法のひとつ。被験者は食品を片手に持って、もう片方の手を前に差し出す。体に良い食品を持っているときには、差しだした手を他の人が押し下げようとしても、それにしっかりと抗える。ところが体に悪い食品を持っているときには、うまく力が入らず、他の人によって簡単に押し下げられてしまうのだ。砂糖を持たせると案の定、筋肉に力が入らなくなってしまう。「ね、この違いをよく覚えておいて。砂糖を食べると強くなれないんだよ」

アンドレアのお母さんはアンドレアを身ごもっていたとき、甘いけしの実入りのパスタばかり食べていたという。アンドレアもずっと好き放題に甘いものを食べて来た。字を習い始めたアンドレアの娘が始めた書いた作文は「ママのよく買うもの……砂糖、ソーダ、キャンディ」だった。そのせいなのか、2人目の子どもは先天性の小耳症だ。(もうこれ以上家族の健康を脅かしたくない)彼女は糖尿病と砂糖が本当に関係があるのかどうか確かめるためにさまざまな学者にインタビューを始める。

リチャード・ボドナー ニューヨーク市立大学心理学教授
「砂糖は体内ですぐに分解されてぶどう糖になり、血糖値を急上昇させる。すると血糖値を下げるためにインスリンが分泌され、ブドウ糖を脂肪や筋肉へと運ぶ。その結果、今度は血糖値が急降下して、また甘いものが欲しくなる。お腹が空いていなくても心理的に求めてしまう。この悪循環が長期間続くと、Ⅱ型の糖尿病になる」教授は自身もⅡ型の糖尿病を患ったという。

ゲイリー・S・エグリントン ニューヨーク病院産婦人科科長
「肥満や糖尿病は急激に増えた。平均寿命も初めて短くなり始めている。原因は食生活の変化。その主な原因は砂糖だ」

ヨウコ・ノムラ ニューヨーク市立大学助教授・臨床研究者
「ADHDの診断は赤ん坊のときにはできない。靴の紐を結んだり、掛け算をしたり、といったことを乳児のうちはしないから。でも学校に入る頃になると、他の子と違ってじっとしていられないなどの症状でADHDだと気づく。砂糖はその原因にもなる。また統合失調症、アルツハイマーなど他の脳疾患にも発展しやすい」
「母親が砂糖を摂ると、血液中のぶどう糖は胎盤を通り抜けて胎児の体に流れ込む。胎児の体はインスリンを分泌することにエネルギーを消耗してしまい、他のことに使われるべきエネルギーがなくなってしまう」

ブライアン・フ― マウントサイナイ医科大学微生物学者
「ジュースを毎日飲む人と、たまにしか飲まない人では体内に常在する細菌の種類が大きく異なる。不適切な食事はパーキンソン病や自閉症、ぜんそくなど免疫系の異常をもたらす。妊娠中の不適切な食事は、子どもの体にも影響を及ぼし、特定の神経疾患にかかるリスクを高める」

アンドレアは自身の台所から砂糖と砂糖を含む食品を排除し始める。すると、冷蔵庫も棚もほとんど空っぽに。スーパーで買えるものはほとんどなくなった。

アデルベルト・ネリセン クシ・インスティテュート・オブ・ヨーロッパ理事@アムステルダム
「昔、妻は体がとても弱く、子どもを産むなど無理だといわれていた。ところが砂糖の摂取をやめるなどの食生活の改善ですっかり健康になり、子どもも授かった」今や20人くらいの?大家族の彼らは「シュガーフリー(砂糖抜きの)・ファミリー」だ。
「1968年に夫婦で自然食品店を始めた。最初は品数も少なかったし、売れるわけないとみんなに言われた。実際お客さんは少なく、暇だから店で本を読んだりしていたよ。でもおいしくて体にいい天然甘味料を開発したり、豆腐のつくり方を勉強したりして、次第に売れるようになった。今や自然食品と名の付くものは市場にあふれているけれども、その80%は名ばかりのジャンクフードだね。オーガニック・シュガーだから安全、などと油断したら大間違いだ」

自然食などには興味のなかったアンドレアも、庭で採れる果物で自家製のジャムをつくるようになった。そして3人目の子ども、ベレンが誕生する。けれど、3歳になろうというのに言葉が話せないなど、上の2人の子どもとは少し違っている。果たして大丈夫なのだろうか。妊娠糖尿病の影響が心配だ。

しかし、アンドレアはシュガー・フリーの料理に次第に慣れ、バリエーションも増えていく。シュガー・フリーにすると、子どもが偏食しなくなり、地味な料理でも喜んで食べるようになる、と彼女は言う。砂糖を止めてから、子どもたちのアレルギーは治り、夫の持病(ライム病)も改善した。

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映画『シュガーブルース 家族で砂糖をやめたわけ』より ©2014 GOLDEN DOWN

元ダンサーのキャシー・ドルジンは子どもたちに「砂糖を知るための教室」を開いている。
若い頃はまさにセックス・ドラッグ・ロックンロールの生活で、ジミ・ヘンドリクスは友達だったし、恋人は麻薬の売人だった。でもその頃の友人はもうみんな死んだ、と彼女は言う。ジミ・ヘンも、5年間同棲した恋人も、親友も。彼女は酒もドラッグもやめた。そして気づいたのは、砂糖とドラッグがとても似ているということだった。
「ほら、このシールを貼ってあげるから、ジュースじゃなくてお水を飲んでね」と幼稚園児に話しかけたり、中高生には適量の砂糖とはどのくらいなのかを説明する。
「砂糖でもなんでも、節度をもって、ほどほどの量を摂るならば、問題ない。とよく言われるけれど、でも適量って一体どのくらいなのか、知ってるかしら? 24時間で25g程度が適量よ。これが25gの砂糖」と透明のポリ袋に入った袋を生徒たちに見せる。
「ティースプーン1杯の砂糖は4g。だから適量は1日6杯ね。だけど、このマウンテンデューの大ボトルには69杯もの砂糖が入っているの。コップに半分飲んだら、もう1日の適量はそれで終わりよ」と。
「好きなものを我慢する必要はないのよ。体にいいものを好きになればいいだけ」とも言う彼女は、ジュースをやめて、果物を食べるよう勧める。

キャシーにとってのバイブルは、ウィリアム・ダフティの著書『Sugar Blues(日本名:砂糖病―甘い麻薬の正体―)』だと言う。この本が世に出たのは1975年。それなりの反響があり、砂糖の売り上げは落ち込んだ。それから40年経ち、もう人々はこの本のことなど忘れてしまったかのようだ。なぜなのか。

そこに影響しているのが1975年にハーバード大学の栄養学部長だったフレッド・ステアが発表した「食事における砂糖」という報告書だ。ステアは砂糖メーカーや食品業界から多額の資金を得ており、そのために彼らに都合のいい結論をでっち上げたのだろう。しかし、それを根拠にしてFDA(米国食品医薬品局)は砂糖は安全だと結論付け、世界に砂糖の安全神話を広めてしまったのだ。

ウィリアム・ダフティが本を書くことになったきっかけは、妻である女優グロリア・スワンソンが強硬な砂糖反対派だったからなのだが、グロリアの元には骨壺が送られて来たこともあった。骨壺を開けると、その中身は砂糖。「これ以上砂糖の問題に深入りするな。でなければお前も骨壺に入ることになるぞ」という砂糖業界からの脅迫だった。

映画はその後もアンドレア自身が反砂糖キャンペーンを繰り広げようと悪戦苦闘する様子や、アフリカの発展途上国までが砂糖に毒され、そのせいで人々の健康が蝕まれていることなどを描き出す。

現在糖尿病の人は世界で3億4600万人。2030年には5億5200万人になるといわれている。
砂糖をやめれば、みんなが健康になり、薬など不要になり、幸せになれるのに……。
アンドレアのもどかしい思いは、私安田もまったく同じ。

ただ「砂糖は健康によくないのよ」と周囲に話すと、たいてい激しい反発を喰らう。そのため、だんだん面倒くさくなって言わなくなってきてしまっていた私に対し、主張し続けるアンドレアはスゴイ。受け入れられる形を工夫しながら、砂糖の害をわたしも伝えるようにしていきたい、と改めて思った次第だ。

レアチーズタルトm-size

ルナのノンシュガー・ケーキ(レアチーズ風だけれど、乳製品も不使用。豆乳ヨーグルトでつくっています)